「経費で落とす」とは?起業前に必ず知っておきたいお金の基本

「経費で落とす」という言葉を聞いたことはありますか?起業準備を進める中で耳にする方も多いと思いますが、どのような支出でも経費にできるというわけではありません。そこで本記事では、起業前後の方に向けて、経費の基本的な考え方や判断のポイントについてわかりやすく解説します。

「経費で落とす」とは?起業家がまず知るべき基本の意味

「経費で落とす」とはどういうことなのでしょうか。はじめに、経費の意味と基本的な仕組みについて簡単に整理してみます。

経費とは「売上を得るために必要な支出」のこと

経費

経費とは、簡単に言うと、売上を得るために必要となる支出のことです。例えば、商談で使う交通費や、仕事の連絡に使うスマートフォン代、広告費などが挙げられます。こうした費用はすべて、売り上げを得るためだけに使われた必要な支出です。これが「経費」です。

これらに対し、日常生活に関係する買い物など、仕事に直接関わらない支出は経費にはなりません。日常生活に関する支出は、売上と直接関係しないため、原則として経費にはなりません。

個人事業主と法人で異なる経費の考え方

経費の考え方は、個人事業主と法人で少し異なる点があります。個人事業主の場合、事業と私生活が近いため、たとえばスマートフォン代や自宅家賃などの費用は、事業使用割合(家事按分)に基づいて経費計上しなければなりません。例えば、事業で50%使用する場合は、その割合分のみが必要経費として認められるわけです。

これに対し、法人の場合は、法人の事業資産と個人資産が厳格に分離されており、事業と生活が明確に分かれています。したがって、基本的に事業専用の費用(例: 事務所家賃や通信費)は全額経費として計上されます。

経費になるもの・ならないもの一覧

どのような支出が経費になるのかは、これから起業する人にとって一番気になるポイントではないでしょうか。そこで本章では、代表的な項目について、一覧にして整理してみます。

個人事業主の経費になる代表例

個人事業の場合、経費になるかどうかの判断は、以下のように行います。

経費になる/ならない例 項目 注意点
商談のための電車代・バス代 交通費 私用の移動は対象外
仕事で使うスマホ・ネット回線 通信費 自宅利用は按分が必要
名刺代・チラシ制作・Web広告 広告費 個人活動の宣伝は不可
文房具・プリンターインク 事務用品費 日常使用の雑貨は対象外
自宅兼事務所の家賃・電気代 家賃・水道光熱費 使用割合を計算する
家族に支払う給与 事業専従者給与 税務署への事前届出が必須
事業主本人への給与 事業主貸 経費にならない

基本的に、個人使用も含まれる経費に関しては経費按分を行います。また、家族や事業主本人に支払う給料は原則として経費に認められませんが、家族に支払う給与に関しては、税務署へ届出をだすことで、専従者給与として経費計上が認められています。

法人の経費になる代表例

法人の場合、経費になるかどうかの判断は、以下のように行います。

経費になる例 項目 注意点
経営者への給与 役員報酬 株主総会の決議により定められた金額を計上可
従業員への給与 給与・賞与 家族であっても届出の必要なく支払い可
社員の健康診断、懇親会費用 福利厚生費 役員や一部の社員のみを対象にするとNG
取引先との食事・贈答品 交際費 私的な飲食・家族同伴は不可
デザインや制作の外注費用 外注費 実態のない契約は否認リスクあり
店舗・事務所の賃貸料 地代家賃 自宅利用は基本的に対象外
PC・家具・機器などの購入 減価償却費 10万円以上は資産計上の可能性

法人の場合、個人とは違い、経営者本人やその家族への給与の支払いは、経費として認められています。また、交際費として認められる幅も個人と比べると広いですが、企業の規模などにより、その上限額は定められています。

経費にならない場合や、注意すべきケース

一見すると、事業に関係ありそうでも、経費として認められないケースがあります。代表的な例としては、私的な買い物や従業員である家族との食事、個人的な旅行費などです。

また、自宅で仕事をしている場合は、家賃や光熱費の全額を経費にすることはできないため、事業で使用した割合を計算して按分しなければなりません。それ以外にも、パソコンや機器などは金額によって資産計上の対象となるため、購入時に全額経費として計上せず、その一部を減価償却として処理する場合があります。

いずれにしても、経費にする際には、支出の目的や使い方を整理したうえで、実情に合わせて経費にするようにしましょう。

起業前から経費にできるものもある?開業費・創立費という考え方

起業する前に使ったお金でも、あとから経費にできる場合があるのをご存じでしょうか。ここでは、「開業費」や「創立費」といった考え方を紹介するとともに、その注意点を解説します。

起業前からの経費

開業費・創立費とは

開業費や創立費とは、事業を始めるための準備期間中に使ったお金のうち、開業後にまとめて経費として計上できる費用のことです。たとえば、開業に関する相談で使った交通費や、名刺やホームページの制作費、業界の情報収集に必要な書籍代、開業に向けて受講したセミナー費などです。

これらは、「繰延資産(くりのべしさん)」という区分でいったん資産として計上し、その後の事業年度で任意のタイミングに費用化します。

なお、「創立費」は主に法人、「開業費」は個人事業主が使う用語ですが、どちらも事業の準備のために支出した費用であることが前提になります。そのため、支出の内容や目的を記録し、開業準備と関係していると説明できるようにしておかなければなりません。

開業費・創立費にできる支出の判断基準

開業費として扱えるかどうかは、支出の時期と目的を基準に考えると整理しやすくなります。まず、開業日よりも前に事業の準備として使った費用であることです。開業日がいつか曖昧な場合は、青色申告や開業届の提出日などを参考に判断すると良いでしょう。

次に、具体的な費用の内訳ですが、例えば、開業に関する相談のための交通費、名刺やチラシの作成費、ホームページ制作費、事務用品の購入費、業界調査のためのセミナー参加費などです。これらは、領収書やレシートを必ず保存し、日付・支払先・目的をメモしておきましょう。

なお、どれが経費になるのかの判断が難しいと感じた場合は、税理士などの専門家に確認すると良いでしょう。

税務署に否認されないための注意点と管理方法

税務署

経費として認められるためには、普段からの管理が欠かせません。最後に、税務署に否認されないために気を付けたいポイントと、日々できる管理方法を紹介します。

経費を認めてもらうための3つのポイント

経費として正しく認めてもらうためには、支出の目的を説明できなければなりません。「何のために使ったのか」を一文で言えるようにしておくと、判断がしやすくなります。次に必要なのが、支出を証明するための領収書やレシートです。日付や支払先、使った内容が分かる資料を残しておくことで、あとから確認しやすくなります。

そして、支出が合理的であるかどうかも重要です。たとえば、自宅で仕事をしている場合、家賃や電気代を全額経費にするのではなく、事業で使った割合を合理的に計算しなければなりません。

経費として認めてもらうためには、この「目的」「証拠」「合理性」の3つがポイントとなります。普段から支出の目的や使い方を簡単にメモしておけば、経費の判断がスムーズになります。判断に迷ったら、「売上を得るための支出かどうか」を基準に見直してみると良いでしょう。

領収書・家事按分・電子帳簿保存法の基本

税務調査で否認されないためには、経費として計上した領収書の保存や整理が欠かせません。支出ごとに日付、支払先、金額、利用目的を記録しておくと安心です。

次に、自宅兼事務所の場合は、家賃や光熱費を「家事按分」と呼ばれる方法で、事業で使った割合に応じて経費にします。また最近は、電子帳簿保存法により、領収書を電子データで保存する方法も認められています。そのため、スマホの写真や会計ソフトを使ってデータ管理すれば、紙の紛失リスクを減らすことができるでしょう。

こうした管理は、一見難しそうに感じるかもしれませんが、普段の習慣にすると負担を抑えられます。ただし、少しでも疑問がある場合は、できるだけ早い段階から税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

まとめ

経費は、「事業に必要な支出かどうか」を基準に考えると整理しやすくなります。個人と法人では扱いが変わることもありますが、どちらの場合も領収書を保管し、支出の目的を簡単に記録しておくと、経費管理の負担が軽くなります。ただし、正しい判断をしないと、最終的な納税額を間違えてしまうため注意が必要です。こうした判断に自信のない方は、できるだけ早い段階から税理士などの専門家に相談してみると良いでしょう。

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