「ベンチャーキャピタル」という言葉を聞いたことはありますか?起業後に事業が順調に進むと、さらなる成長のために、資金調達を考える場面に遭遇します。その際の選択肢のひとつが、ベンチャーキャピタルによる出資です。そこで本記事では、ベンチャーキャピタルの基本的な仕組みや、出資を検討する際のポイントについて、はじめての方でも理解しやすいように解説します。
目次
ベンチャーキャピタルとは?起業家向けにわかりやすく解説
ベンチャーキャピタルは、成長が期待できる企業に資金を出す専門の投資家です。ここでは、基本的な意味と、どのような仕組みでお金を提供しているのかを解説します。

ベンチャーキャピタルの定義
ベンチャーキャピタル(以下VC)とは、将来の成長が期待できる企業に対してお金を出資し、その会社の株式を取得することで事業を支援する機関投資家のことです。出資は銀行融資とは違うため、VCから資金提供を受けても、毎月の返済義務はありません。
その代わり、会社が大きく成長したり上場したりすると、VCは、保有していた株式を売って利益を得ます。また、VCは単に資金を出すだけでなく、積極的に企業経営に関与し、経営者にアドバイスをしたり人や企業を紹介したりすることもあります。そのため、スタートアップと呼ばれる新しい企業にとってVCは、大きく成長するためのパートナーのような存在といえるでしょう。
VCの仕組み
VCは、まず投資家や企業からお金を集め、ファンドと呼ばれる大きな資金を作ります。そのお金を使って、将来伸びる可能性がある会社に出資し、その対価として株式を取得するわけです。その後、会社の成長を支援しながら、上場(IPO)や他社による買収(M&A)といった機会を待ちます。そして、企業が成長して株価が上がれば、保有していた株式を売却して利益を得ます。
この、出資から売却までの一連の流れを、「EXIT(イグジット)」と呼びます。VCは、自身の持つ企業経営のノウハウや人脈を使って積極的に対象会社の運営に関わり、企業価値を上げたうえで株式を売却し、売却益を得る仕組みとなっているわけです。
銀行融資との違い
融資の場合、資金を一定期間銀行から融通してもらっているだけなので、最終的には金利とともに元本を返済しなければなりません。基本的には融資を受けた翌月から返済がスタートし、毎月金利とともに元本を分割で支払います。
これに対し、出資の場合は対価として自社株を発行するため、資金を返済する必要はありません。もちろん、支払利息も支払う必要はありません。この点が、両者の大きな違いです。
ただし、VCからの出資を受けるにあたり、株式の一部を渡すため、VCは株主として会社の意思決定に深く関わることになります。一方、融資は出資ではないため、銀行が会社の意思決定に意見を入れることはできません。
また、銀行は過去の業績や担保を重視するのに対して、ベンチャーキャピタルは「これからどれだけ成長できるか」を判断して投資します。これらの点が、両者は大きく異なります。
VCが投資する企業の特徴と選ばれるためのポイント
VCは、将来の成長が期待できる企業を選んで出資します。ここでは、どのような企業が投資の対象になるのか、判断されるポイントをわかりやすく紹介します。

事業の成長性・スケーラビリティ
ベンチャーキャピタルが重視するのは、事業がどれだけ大きく広がる可能性があるかです。これを「スケーラビリティ」と呼びます。たとえば、一つの地域でしか売れないビジネスよりも、全国や海外に展開できるサービスの方が、成長性が高いと判断されます。また、アイデアだけでなく、実際に顧客がいて、今後さらに売上が伸びる見込みがあることも、重要なポイントです。
さらに、市場の規模や競合との差別化など、事業が大きく広がる理由を説明できると、ベンチャーキャピタルからの評価が高くなります。
経営陣の能力と実行力
事業の内容と同じくらい大切なのが、経営陣の能力です。ベンチャーキャピタルは、アイデアが良くても実行できなければ成長しないと考えます。
そのため、過去の経験や専門知識、チームワークなどを重視します。また、問題が起きたときにどう乗り越えるか、成長のために必要な戦略を立てられるかといった点も重要な評価ポイントです。すべてが完璧である必要はありませんが、「この経営陣なら成長できる」と感じてもらえるかどうかが、出資を受けるうえで大きなポイントになります。
ベンチャーキャピタルから出資を受けるメリット・デメリット

VCから出資を受けると、資金以外にもさまざまなものが得られる反面、注意しておくべき点もいくつかあります。ここでは、VCの主なメリットとデメリットを整理します。
出資を受けるメリット
VCから出資を受ける最大のメリットは、返済する必要のない資金を得られることです。金融機関の融資とは異なり、毎月の返済負担がないため、成長に向けてお金を使いやすくなります。
また、資金だけでなく、経営者に必要な知識や人脈を紹介してくれることもあります。たとえば、事業に役立つ専門家や提携先の企業、採用に関する支援を受けられる場合もあります。こうした支援により、自社だけでは届かなかったチャンスを広げるきっかけになることも、VCの大きなメリットといえるでしょう。
デメリットと注意点
一方で、出資を受けることには注意も必要です。出資と引き換えに株式の一部を渡すため、経営の自由度が下がることがあります。
VCは、単に資金を提供するだけではありません。企業の成長を見守る立場でもあるため、株主として、重要な意思決定には積極的に介入する場合があります。また、株式を渡した分だけ経営者の持株比率が低下するため、会社への影響力が小さくなることがあります。
VCへのアプローチ方法と投資までの流れ

VCから出資を受けるためには、いくつかのステップを踏む必要があります。ここでは、実際のアプローチ方法と投資が決まるまでの流れをわかりやすく解説します。
VCとの接触方法
まずは、自社の事業についてまとめた資料(ピッチ資料)を作成します。その際には、事業の目的や収益モデル、成長計画などを、できるだけイメージしやすく端的に記載することが大切です。
次に、VCへの接触です。これには、知人や専門家からの紹介やピッチイベントへの参加、オンラインでの応募などがあります。その際、事業内容が明確で、将来どのように成長していくのかが説明できる資料があれば、話がスムーズに進みます。
審査と契約の流れ
VC側に興味を持ってもらえた場合は、面談を重ねながら事業の内容や業績について詳しく説明します。さらに進むと、次に行われるのが「デューデリジェンス」と呼ばれる審査です。
ここでは、財務状況、事業計画、チーム体制、マーケットの可能性などが丁寧に確認されます。この審査に問題がなければ、契約内容を詰める段階に進み、出資比率や経営への関与の範囲などが話し合われます。こうして合意がまとまると、契約が締結され、その後出資が実施されます。
まとめ
VCは、返済の必要がない資金を通じて、企業の成長を後押しする存在です。出資を受けるためには、事業の成長性や経営陣の実行力が重視されます。したがって、まずは自分のビジネスがどの段階にあるのかを整理したうえで、VCを説得できるだけの資料を準備しておくことが重要です。こうした専門性の高い資料の作成が不安な方は、税理士などの専門家に相談しながら進めていくと良いでしょう。