
事業を運営するうえで、契約書は欠かせない存在です。取引や業務委託、雇用などの場面で契約を交わすことで、トラブルを防ぎ、取引先や従業員との関係をスムーズに進めることができます。
しかし、契約書の内容を十分に理解せずに締結すると、後々問題が生じることもあります。本記事では、契約書の重要性や、起業家が押さえておくべき主要な契約書について解説します。
目次
なぜ、契約書が必要なのか?
契約書は、取引のルールを明確にし、トラブルを未然に防ぐために欠かせません。まずは契約書の基本的な役割を確認し、契約を交わさない場合に起こりうるリスクについて解説します。
契約書の基本的な役割
契約書は、取引における権利や義務を明確にし、双方が合意した内容を法的に証明する役割を持ちます。これにより、口約束だけでは曖昧になりがちな取引条件や責任範囲を明確化し、後のトラブルを防ぐことができます。
例えば、支払期日や業務範囲、損害賠償の条件などを契約書に記載しておけば、万が一の際にも双方が合意した内容を根拠に対応することが可能です。また、契約書があれば、万が一裁判になった場合でも証拠として有効に機能し、立場を守るための強力なツールとなります。

契約を交わさないリスク
契約書を交わさずに取引を進めると、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。例えば、口約束だけで業務を依頼した場合、報酬の未払いが発生しても証拠がないため、請求が難しくなることがあります。
また、業務の範囲や納期について認識のズレが生じた場合、トラブルに発展するケースも少なくありません。契約不備により損害賠償の責任が不明確になり、法的な問題に発展してしまうリスクもあります。
こうした事態を避けるためにも、契約内容を明確に記した契約書を交わし、万が一の際に備えておくことが重要です。
起業家が押さえておくべき主要な契約書

事業を安定させるためには、契約書の種類ごとの役割を理解し、適切に活用することが重要です。ここでは、取引基本契約書、業務委託契約書、秘密保持契約(NDA)、雇用契約書について解説します。
取引基本契約書
取引基本契約書は、継続的な取引を行う際に必要となる契約書で、売買や業務委託などの基本的な取引条件を定めるものです。これを締結することで、毎回個別の契約を交わす手間を省き、安定した取引関係を築くことができます。
具体的には、支払い条件、納品スケジュール、品質保証、契約解除の要件などが明記されるのが一般的です。さらに、取引中に発生する可能性のあるトラブル対応や責任分担についても記載することで、万が一の際の対応がスムーズになります。
また、契約期間や自動更新の有無、競業避止条項(競争相手と取引をしない制約)を設けることも可能です。適切な契約を締結することで、双方の信頼関係を強化し、取引を円滑に進めることができます。
業務委託契約書
業務委託契約書は、企業や個人事業主が外部の専門家やフリーランスに業務を依頼する際に交わす契約書です。主な目的は、業務の範囲や責任の明確化にあり、具体的には業務内容、報酬、納期、支払い条件、契約解除の条件などを定めます。
業務委託契約書に関して重要なのは、「請負契約」と「準委任契約」の違いです。請負契約は、業務の成果物の納品が求められるのに対し、準委任契約は業務を遂行すること自体が契約の目的となります。
また、委託先が業務を再委託できるのかどうか、知的財産権の帰属をどうするかといった点も、契約書に明記しておくべきです。
こうした要素を整理し、契約を適切に交わすことで、トラブルを防ぎつつ、業務をスムーズに進めることができます。
秘密保持契約(NDA)
秘密保持契約(NDA)は、ビジネス上の機密情報を第三者に漏洩させないために締結する契約書です。特に、新規事業の計画や技術情報、顧客リストなど、競争優位性に関わる情報を守るために不可欠です。
この契約では、秘密情報の範囲、保持期間、違反時のペナルティなどが明記されます。例えば、契約の解除後も一定期間は情報を保持しないといった条項を設けることが一般的です。
また、「片務契約」か「双務契約」か、という点も重要です。片務契約では一方が情報を守る義務を負いますが、双務契約では双方が情報を守ることになります。さらに、秘密保持の対象を 「書面のみ」か「口頭での情報も含む」か、を明確にしておくことで、契約の有効性が高まります。
雇用契約書
雇用契約書は、企業が従業員を雇う際に労働条件を明確にするための契約書です。給与、勤務時間、休日、退職に関する規定などを詳細に定めることで、労使間のトラブルを未然に防ぐことができます。
特に、労働基準法に則った内容になっているかを確認することが重要で、最低賃金の遵守、時間外労働の条件、福利厚生などを明確に定めておかなければなりません。また、試用期間の有無や解雇条件についても、契約書に明記することで、企業側・従業員側双方にとって透明性のある雇用関係を築くことができます。
さらに、競業避止義務や秘密保持条項を設けることで、退職後の情報漏洩や競争相手への転職による影響を最小限に抑えることも可能です。
契約書の意外な落とし穴と回避策
契約書の内容を十分に確認せずに締結すると、思わぬトラブルにつながることがあります。ここでは、よくある契約上の落とし穴と、その回避策について解説します。

契約内容の曖昧さ
契約書の文言が曖昧だと、解釈の違いによるトラブルが発生しやすくなります。例えば、「業務完了後に支払い」とだけ記載されている場合、どの段階で業務が完了と見なされるのかが不明確です。
また、「適正な品質で納品」といった抽象的な表現も、トラブルの原因になります。こうした曖昧さを防ぐためには、具体的な条件や基準を明記し、数量・納期・支払い方法などを詳細に定めることが大切です。
また、条項ごとに定義を明確にし、「〇〇の場合は△△する」といった具体的な表現を用いることで、誤解を防ぐことができます。こうした契約書の作成時には、専門家のチェックを受けると良いでしょう。
解除条件や違約金の見落とし
契約解除の条件や違約金の規定を十分に確認せずに契約すると、後々大きな問題を招くことになりかねません。例えば、解約する際に高額な違約金が発生するケースや、一方的に不利な条件で契約解除が認められる条項が含まれている場合があります。
また、「〇ヶ月前に書面で通知しなければ契約解除不可」といった条項があると、すぐに契約を終了できない可能性もあります。
こうしたリスクを防ぐためには、解除条件や違約金の項目を契約前に必ず確認し、交渉の余地があるかを検討することが重要です。また、解約時の具体的なプロセスを契約書に明記し、不明点があれば弁護士などの専門家に相談することが望ましいでしょう。
まとめ
契約書は、起業家にとって事業の安定とリスク回避のために欠かせないものです。適切な契約を結ぶことで、取引のトラブルを未然に防ぎ、スムーズな事業運営が可能になります。
しかし、契約内容を十分に理解せずに締結すると、思わぬ問題が発生することもあります。不安な点がある場合は、速やかに弁護士などの専門家に相談し、リスクを回避しながら契約を適切に管理するようにしましょう。