起業して法人を設立するにあたり、まず頭に浮かぶのは「資本金をいくらに設定すれば良いか?」ではないでしょうか。資本金は、事業を始める上で土台となる資金であるだけでなく、会社の運営や信用力に大きな影響を及ぼす重要なものです。したがって、適切な金額に資本金を設定していないと、資金不足で事業を続けられなくなったり、取引先からの信用が得られなかったりすることがあります。
そこで本記事では、資本金の基本的な役割や目安についてわかりやすく解説したうえで、最適な資本金を決めるためのヒントをお伝えします。また、失敗しない資本金の考え方や見落としがちな注意点についても触れていますので、最後まで読んでいただければ、迷うことなく最適な資本金を設定できるでしょう。
目次
起業に欠かせない資本金とは
資本金とは、事業を始めるための初期資金であり、会社設立時に出資者から拠出されたお金の総額のことです。この資本金は、会社の信用力を示す重要な指標であると同時に、初期費用や運転資金としても活用される非常に重要なものです。
資本金は何のために必要?
資本金には、3つの主要な役割があります。
- 事業のスタート資金・・・資本金は、事業を始めるために必要な設備費、商品仕入れ、広告費、賃貸契約の敷金・礼金などの初期費用に充てられます。したがって、何の事業を行うのかによって、必要な資本金が異なります。
- 信用力の証明・・・金融機関や取引先は、資本金の額をもとに会社の財務的な健全性を判断します。資本金が十分であれば、融資を受けやすくなり、取引先との契約もスムーズに進みます。一方、資本金が小さすぎる場合、「資金繰りが厳しいのでは?」と不安視されるため、口座の開設すら難しいことがあります。
- 法的・実務的な安定性・・・資本金の額が、会社の安定性を示す指標となることもあります。特に、許認可が必要な業種では資本金の要件が定められている場合もあるため、必要かつ十分な額を設定することが重要です。
資本金が会社経営に与える影響
資本金の額は、会社の経営状況や成長に大きな影響を与えます。具体的には、以下のようなケースにおいて、資本金の金額が重要なキーポイントとなります。
- 運転資金の確保・・・十分な資本金があれば、開業後の運転資金に余裕を持たせることができます。例えば、初期売上が計画を下回った場合でも、余剰資金を活用して人件費や仕入れ代金を支払うことが可能です。
- 成長投資の余地・・・資本金が大きいほど、事業拡大の際に必要な設備投資や広告費をすぐに投入できる余裕が生まれます。特に、変化が激しく成長が早い業界では、資本金の規模が競争力を左右することがあります。
- リスク対応力・・・予想外のトラブルや経済変動が起きた際、十分な資本金があれば事業を安定して継続できます。例えば、疫病や自然災害による一時的な売上減少時にも、運転資金を切らすことなく対応できます。
意外に少ない?資本金の目安
資本金を設定する際、どれくらいの額が妥当なのかは、多くの起業家が悩むポイントです。総務省が実施した「令和3年経済センサス‐活動調査 速報集計 企業等に関する集計」によると、資本金が300~500万円未満の会社が約58万社と一番多く、この辺りが中小企業の資本金のボリュームゾーンであることが分かります。
ですが、資本金の額はバラつきが多く、平均額そのものにはあまり意味がありません。なぜなら、業種によって必要となる金額が異なるからです。
そこでこの章では、業種ごとの一般的な資本金の目安や、プラスアルファとして加味すべきポイントについて解説します。
資本金の一般的な目安と業種ごとの違い
上述のように、資本金の額は、事業内容や規模によって大きく異なります。具体的には、業種ごとの資本金の目安は、おおむね以下のようになります。
- 小規模なサービス業・・・飲食店や美容室などでは、300万円~500万円程度の資本金でスタートするケースが一般的と言われています。
- 製造業や輸出業・・・設備投資や大量仕入れが必要となるため、1,000万円以上の資本金が求められることが多いと言えます。
- IT関連スタートアップ・・・他の業種と比べると初期投資が少なくて済む場合があるため、資本金100万円程度で始める企業も見られます。
こうした例からわかるように、業種ごとに必要な資本金の目安は異なります。したがって、資本金の金額を決める際には、同業他社の事例などを参考にしながら、自身の事業規模に適した額を設定すると良いでしょう。
資本金の目安を左右する要因
資本金の設定額は、業種以外にも、以下の要因によって大きく左右されます。
- 事業規模・・・小規模事業であれば少額の資本金で十分ですが、大規模事業や海外進出を目指す場合であれば、数千万円単位の資本金が必要になることがあります。
- 地域差・・・都市部と地方では、初期費用にかかるコストが異なります。したがって、地域によって適切な資本金額を設定しなければなりません。例えば、オフィス賃料が高い都市部であれば、より多くの資本金が必要となります。
- 業種特有の要件・・・一部の業種では、法的な最低資本金が設定されている場合があります(例:金融業や一部の建設業)。したがって、こうした要件が必要な業種の場合は、それを満たす分だけの資本金が必要となります。
- 許認可要件・・・業務を行うにあたり特定の許認可が必要となる場合、その許認可を取得するために、一定以上の資本金が求められる場合があります。例えば、不動産業を開業する際には、宅地建物取引業法に基づき500万円の営業保証金(供託金)を納付しなければなりません。そのため、この金額を賄える以上の資本金を準備しておく必要があります。
失敗しない資本金の決め方・考え方
資本金を適切な金額に設定することは、今後の事業の成功に直結する非常に重要なポイントとなります。そこで最後に、資本金を決めるための具体的な基準や、それでも決め方が分からない場合の対処法などについて解説します。
資本金を決める際に考慮すべき基準
資本金の金額を決める際には、まず事業計画を作成し、それに基づいて初期費用と運転資金を正確に見積もっておくことが大切です。たとえば、飲食業であれば内装工事費や設備購入費が、IT関連事業であれば開発費や人件費などが主な初期投資になります。
また、開業後の数か月間は売上が安定しない可能性があるため、その間を乗り切るための資金を運転資金として計算しておかなければなりません。
これらの金額に地域性なども加味した上で、事業をスタートするために必要となる資金を見積もり、それを基に資本金額を決定していくわけです。
専門家に相談して判断の精度を上げる
資本金の設定や事業計画の作成が難しいと感じた場合は、税理士などの専門家に相談すると良いでしょう。専門家に相談すれば、初期費用や運転資金などの正しい見積もり方法が学べるため、計画の甘さによる資金不足を避けることができます。
また、起業時に融資などを検討している場合は、専門家に相談しながら精緻な事業計画書を作成しておけば、資金調達に成功する確率をアップすることも望めます。初めての起業で不安がある場合は、できるだけ早い段階から専門家に相談しながら進めていくと良いでしょう。
まとめ
資本金をどのように設定するかは、事業の成否を左右する重要なポイントです。初期費用や運転資金をしっかりと見積もり、自分の事業に合った無理のない金額を決めることが大切となります。資本金の金額を決める際に事業計画を立てておけば、正確な金額が分かるだけでなく、取引先や金融機関からの信頼も得やすくなります。
ただし、こうした金額の算定を正確に行うのは、簡単な作業ではありません。もし不安がある場合は、専門家の意見を聞きながら進めていくようにしましょう。