法人を設立してからはじめての決算日を迎えたら、1年目の決算を行わなければなりません。ですが設立して初めての決算であれば、分からないこともたくさんあるのではないでしょうか?起業して法人を設立した人はもちろんのこと、個人事業から法人成りした人も、法人の決算ははじめてのはずです。何から手を付ければ良いのか、そもそも法人の決算とは何をするのかなど、分からないことも多いことでしょう。
そこで本記事は、法人1年目の決算を迎えた経営者の方を対象に、法人の決算に関する最低限の基礎知識をできるだけ分かりやすく整理したうえで、注意すべきポイントについて解説していきます。
目次
そもそも、法人の決算って何するの?
「決算」という言葉は日常生活でも耳にする機会があると思いますが、そもそも「決算」とは何なのでしょうか?
決算とは
会社が決算日を迎えると、一定期間における収益や財産の状態を計算して決算書を作成して株主総会を開催します。そこで承認された内容をベースに申告書を作成し、法人税などの税金の申告を行います。この一連の作業を「決算」と言います。
なお、ここで言う「一定期間」とは、決算書類を作成する対象となる事業年度のことを指します。法人を設立する際に作成した定款をご覧いただくと、「当会社の事業年度は、〇月1日から翌年〇月末日までの年1期とする」などの記載が見られるはずです。この定款で定められた事業年度に基づき、決算が行われるわけです。
個人の決算と法人の決算の違い
個人事業から法人成り(=個人事業を法人化すること)した方であれば、個人事業の確定申告を行った経験があるでしょう。では、個人の決算と法人の決算では何が違うのでしょうか?
個人事業の確定申告は所得税のルールに基づいて行い、法人の確定申告は法人税のルールに基づいて行います。したがって両者の税法の違いにより、個人と法人の決算は様々な点で異なります。その中でも特に違うのが、所得金額を算定するプロセスです。
個人事業であれば、会計上の利益と所得税を算出するための所得金額は、基本的にそれ程乖離することはありません。しかし、法人の場合は会計上の利益をベースに法人税法のルールに従って加算・減算が行われるため、最終的な所得金額は会計上の利益と大きく乖離してしまいます。
そのため、法人の場合は、決算書上は黒字でも税金(法人税等)を支払わなかったり、反対に決算書上は赤字でも、かなりの額の税金を支払うことになったりします。
このように、法人の決算では経営者の肌感覚と最終的な納税額が大幅にずれる恐れがあるため、注意しておいた方が良いでしょう。
最低限知っておきたい決算書の構成
上述のように、決算業務を行うためには決算書を作成しなければなりません。この決算書の構成は、上場企業と一般の中小企業とでは以下のように異なります。
対象となる企業 | 一般の中小企業 | 上場企業 |
---|---|---|
決算書の構成 | 貸借対照表 | 貸借対照表 |
損益計算書 | 損益計算書 | |
株主資本等変動計算書 | キャッシュフロー計算書 | |
個別注記表 | 株主資本等変動計算書 | |
附属明細書 | ||
準拠すべき法律 | 会社法 | 会社法・金融商品取引法 |
一般の中小企業と上場企業とでは、上記のように準拠すべき法律が異なるため、決算書の構成も違います。なお、「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」の3つを総称して財務三法と言います。ここでは、財務三法のうち一般の中小企業でも作成が必要な貸借対照表と損益計算書について解説します。
貸借対照表
貸借対照表とは、決算時における資産・負債・純資産の内訳を表したものです。下図をご覧ください。
資産の部 | 負債の部 |
---|---|
流動資産 | 流動負債 |
現金預金 | 固定負債 |
売掛金 | 純資産の部 |
固定資産 | 資本金 |
有形固定資産 | 利益剰余金 |
無形固定資産 | |
資産合計 | 負債・純資産合計 |
向かって右側は、企業が資金をどのような方法で調達したのかを表しています。金融機関から融資を受けた場合であれば「負債の部」の流動負債もしくは固定負債が増え、出資してもらった場合であれば「純資産の部」の資本金等の金額が増えます。
これに対して左側は、調達した資金をどのように使ったのかを表しています。調達した資金を何も使わなければ「資産の部」の現金預金が増え、車両などを購入すれば同じく「資産の部」の有形固定資産が増えます。
なお、貸借対照表は大きく分けると「資産の部」「負債の部」「純資産の部」の3つから構成されており、資産の部の合計金額と負債・純資産の部の合計金額は必ず一致するように作られています。そのため、貸借対照表は英語ではバランスシート(略称:BS)と呼ばれています。
損益計算書
損益計算書とは、一事業年度における収益や費用などを集計し、最終的な当期利益を表す計算書です。下図をご覧ください。
項目 | 金額 | |||
---|---|---|---|---|
経常損益の部 | 営業損益位の部 | 売上高 | ||
売上原価 | ||||
売上総利益 | ||||
販売費及び一般管理費 | ||||
営業利益 | ||||
営業外損益の部 | 営業外収益 | |||
営業外費用 | ||||
経常利益 | ||||
特別損益の部 | 特別利益 | |||
特別損失 | ||||
税引前当期純利益 | ||||
法人税等 | ||||
当期利益 |
売上高から売上原価を引くと売上総利益が算出され、そこから販売費及び一般管理費を引くと営業利益が算出されるように作られています。こうして様々な費用を段階的に差し引いていった結果、最終的に当期利益が算出されるように作られています。
ちなみに、損益計算書は英語ではPL(Profit and Loss Statementの略称)と呼ばれます。
なお、これ以外にも中小企業が決算で作成を義務付けられているものとしては、以下の2つがあります。
- 株主資本等変動計算書・・・一事業年度における純資産の変動を表す書類です
- 個別注記表・・・重要な会計方針に関する注記や、貸借対照表・損益計算書などに関する注記を一覧にした書類です
このように、一般的な中小企業が作成する決算書は、貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表の4つから構成されています。
1年目の決算で注意したいポイント
1年目の決算で注意すべきポイントのうち、特に重要なのが以下の3点です。
日々の帳簿類を正しく記帳しておく
正しい決算を行うためには、大前提として、日々の帳簿類を正しく記帳しておかなければなりません。仕訳帳や総勘定元帳、仕訳日記帳などが正しく記帳されていなければ、決算業務にどれだけ時間をかけたとしても、正しい決算を行うことはできません。
正しい決算ができなければ正しい申告書の作成や納税ができないため、税務調査で高額なペナルティを支払うことにもなりかねません。こうしたリスクを避けるためには、決算前に日々の帳簿類をすべて見直し、正しく処理されているかを必ず確認するようにしましょう。
インボイス制度に正しく対応した処理を行う
法人設立1年目であれば基本的に消費税の課税事業者となることはありませんが、インボイス制度の導入にともない、1年目から消費税の課税事業者となっている会社も多いはずです。
インボイス制度は導入されて間もないこともあり、さまざまな企業でいまだに混乱が起きています。インボイス制度に即した正しい処理を行うのは非常に難しく、手間もかかるため、初めての決算では非常に間違いやすいポイントのひとつです。
そのため、日々の経理業務をすべて見直し、インボイス制度に正しく対応した処理がされているかを確認しておくと良いでしょう。
自分でやるのに自信がなければ専門家に相談する
個人事業の決算と比べると、法人の決算の難易度は何段階も上です。法人税に関する知識もある程度以上なければ、申告書を作成することもできません。
また、個人と比べると法人の場合は、税務調査が行われる頻度も高くなります。そのため、自分で法人の決算をやるのに少しでも不安のある方は、リスクを避けるためにも税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
まとめ
個人事業の決算も大変ですが、法人の決算はそれ以上に何倍も大変です。必要となる税法の知識も、手間も、時間も、個人の場合とは比べ物になりません。インボイス制度の導入にともない法人1年目から消費税の課税事業者となっている場合は、決算の難易度が更に上がってしまいます。
それだけでなく、個人と比べると法人の方が税務調査の確率が数倍も高くなるため、決算を間違えてしまうと高額なペナルティを受けるリスクが断然上がってしまいます。
こうした点から、少しでも決算業務で分からない点がある方や自信がない方は、税の専門家である税理士に相談しながら決算を進めて行くのが良いでしょう。