起業を決意し、会社を設立した後に直面する大きな悩みが、自分の給料(役員報酬)をいくらに設定するかです。利益が出てから決めればいい、手取りを増やしたいからできるだけ多くしたいなど、曖昧な基準で決めてしまうと、後から変更できずに資金繰りを圧迫したり、逆に税金で大きく損をしたりすることになりかねません。そこで本記事では、役員報酬の厳格なルールと、損をしないための具体的な判断基準を解説します。
目次
起業1年目の役員報酬が重要な理由
会社を設立して自分の給料をいくらにするのかは、経営者にとって極めて重要です。とりわけ、実績もデータもない起業1年目の決断は、その後の会社の明暗を分けると言っても過言ではありません。なぜなら、1年目の報酬設定には、1年目特有のリスクと重要性が伴うからです。

「実績ゼロ」で決める一発勝負の怖さ
2年目以降であれば、前年の売上を参考に予測が立てられますが、1年目はすべてが推測です。この状況で役員報酬を高く設定しすぎてしまうと、あっという間にキャッシュが底をつきてしまいます。
逆に、後から利益が出そうだからと増額することもできないため、1年目はこうした予測精度の低さが大きなリスクとなりうるわけです。
銀行融資と「自己資本」への直接的な影響
起業1年目は、手元資金も十分ではないでしょうから、融資を検討する場面も少なくないでしょう。ですが、役員報酬を高くしすぎて会社の利益を削りすぎてしまうと、決算書上の自己資本が減るため、銀行からの評価が下がってしまいます。
逆に低すぎると、社長個人の生活が苦しいのでは?と判断され、これまた審査に悪影響を及ぼすことがあります。したがって、「会社をどう見せたいか」という戦略を十分に検討したうえで、1年目の報酬額を決定しなければなりません。
知っておきたい「役員報酬のルール」と注意点

役員報酬は、会社の利益を調整する目的で、いつでも自由に変えられるものではありません。税務署に正しく経費(損金)として認めてもらうためには、法律で定められたルールを守らなければなりません。
役員報酬はいつ決める?1年目と2年目以降の違い
役員報酬の金額を決められるチャンスは、原則として年に1度だけです。実際には、以下のスケジュールで役員報酬の金額を決定します。
- 起業1年目・・・設立から間もなく訪れる最初の給与支払いや、社会保険の手続きに合わせて、遅くとも設立から2ヶ月以内には金額を確定させ、その議事録を残しておきます。
- 2年目以降・・・法人税の申告と納税の期限に合わせて開催される「定時株主総会」(中小企業は基本的に決算後2カ月以内)において、翌年1年間の報酬額を決定します。
1度決めたら1年間変えられない「定期同額給与」
株主総会で決定した報酬額は、次の決算まで1年間は、原則として毎月ずっと同じ金額を支払い続けなければなりません。これを「定期同額給与」といいます。定期で同額なわけですから、 「利益が出たから増やす」「赤字だから減らす」といった安易な変更は、一部の例外(大幅な業績悪化)を除けば、基本的には認められません。
もし途中で金額を変えてしまうと、その報酬の一部(または全部)が経費として認められず、会社に余計な法人税がかかるリスクが生じてしまいます。
いくらにする?生活費・税金・資金繰りから考える現実的ライン

役員報酬の金額を決定する際には、単なる節税だけでなく、経営者自身の生活と会社の財務健全性の両面からバランスを探る必要があります。
【生活費】社長個人が「最低限必要な手取り」を算出する
まずは「いくらあれば生活できるか」という現実的なラインを固めることから始めます。起業1年目は、会社にお金を残したい一心で、自分の給料を極端に低く設定しがちです。
しかし、自宅の家賃やローンの支払い、保険料、食費などが不足し、結果として「会社からお金を借りる(役員貸付金)」ことになれば、将来の税務調査でのリスクとなりかねません。まずは個人として最低限必要な手取りを計算し、そこから逆算して額面の報酬額を検討しましょう。
法人税・所得税・社会保険料のバランスを見極める
次に、会社と個人のトータルの税負担を考えます。ここで重要になるのが以下の3つです。
- 法人税・・・会社の利益に対して約30%(法定実効税率)課税されます。また、中小企業の場合、利益が800万円を超えるとさらに税率が高くなります。
- 所得税・住民税・・・役員報酬の所得金額から基礎控除をはじめとするさまざまな控除を引いた金額に対し、所得税が5%~45%(累進課税)、住民税が10%(金額に関係なく一律)課税されます。
- 社会保険料・・・月額の役員報酬額に対し、会社負担分と本人負担分の合計で約30%の社会保険料が課されます。
役員報酬を下げれば所得税や住民税、社会保険料の負担は減りますが、その分会社の利益が増えるため、支払う法人税額が増えます。反対に、役員報酬を高額にすれば法人税額は減りますが、その分所得税などの負担は増えます。
このように、両者はシーソーのような関係であるため、報酬を決める際には実際の負担額をシミュレーションし、自社にとってどれくらいがベストなバランスなのかを十分に検討しなければなりません。
【資金繰り】会社に残すべき内部留保と融資への影響
役員報酬は「経費」として利益を圧縮しますが、あまりに高くしすぎると会社の現預金が減り、突発的なトラブルに対応できなくなります。特に起業1年目は、決算書を「黒字」にして自己資本を厚くしておかなければ、将来の銀行融資に悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため、税金などのコストとは別に、会社の資金繰りと次の一手への投資資金をどれだけ残すべきかという視点も不可欠です。
翌年以降の見直しについても知っておこう

役員報酬は、一度決めたらずっとそのまま、というわけではありません。会社の成長に合わせて、毎年「メンテナンス」をしていかなければなりません。
業績に連動させて毎年「最適化」する
2年目以降は、前年度の確定した実績があるため、1年目よりも精度の高い予測が可能になります。「思ったより利益が出たから、来期は少し報酬を上げて法人税を抑えよう」「設備投資にお金を回したいから、報酬は据え置こう」といった調整を、毎年決算のタイミング(定時株主総会)で行わなければなりません。
また、融資などによる資金調達を予定している場合は、それも踏まえたうえで役員報酬額を決定するようにしましょう。
ライフステージや法改正に合わせた微調整
社長自身のライフステージ(家族構成の変化など)や、毎年のように変わる税制・社会保険料率の変化にも目を向ける必要があります。数年前までは最適だった金額が、法改正によって実は損な設定に変わっていることも珍しくありません。少なくとも年に一度、決算の時期には、今の金額が本当にベストかを考えるようにしましょう。
まとめ
役員報酬の決定は、社長にとって最初の大きな経営判断です。法人税を減らそうとすれば個人の負担が増え、個人の負担を減らそうとすれば、今度は逆に会社に多額の税金がかかってしまいます。この複雑なシーソーのバランスを、勘だけで調整するのはリスクが伴うため、正確な金額を知りたい方は税理士などの専門家に相談することをお勧めします。