2006年5月1日に施行された会社法により、有限会社法は廃止され、以降は有限会社を設立することができなくなりました。その代わりに新しく導入されたのが、合同会社です。
合同会社は米国のLCC(Limited Liability Company)をモデルとしており、一般的には小規模企業を対象としていますが、AmazonやGoogle、Appleの日本支社のような巨大企業であっても、合同会社という会社形態を選択する場合もあります。
そこで本記事では、合同会社とはどのよう会社形態や特徴を有しており、そのメリットやデメリットにはどのようなものがあるのかを整理したうえで、1人で会社を設立するなら株式会社か合同会社のどちらが良いかを解説します。
合同会社とは?
会社には、所有と経営が分離しているものと、所有と経営が一致しているものがあります。前者を株式会社といい、後者を持分会社といいます。
株式会社では、所有者である株主と経営者である取締役は基本的に分離しており、株主から一定の任期で経営を任された取締役が、実際の企業経営を行ないます。中小企業では、所有者と経営者が同一であるオーナー経営者の形態が多いものの、基本的に株式会社は、上場企業のように所有と経営が分離しています。
これに対し持分会社とは、所有と経営が一致したタイプの会社形態のことです。合同会社と合名会社、合資会社の3つが、この持分会社に該当します。
合同会社の特徴
合同会社のおもな特徴としては、以下の3つが挙げられます。
- 出資者は有限責任である
- 出資額に関わらず議決権が1人につき1票である
- 役員に任期がない
株式会社の出資者である株主は、会社がどれだけ借金を背負うことになったとしても、株主が出資した金額を上回る債務を背負うことはありません。これを「有限責任」といいます。これと同じように合同会社も、出資者である「社員(いわゆる「会社員」とは違います)」も、出資した金額以上の債務を背負う必要のない有限責任です。
次に、出資額の大小にかかわらず、社員に与えられる議決権は1人につき1票です。したがって、合同会社の設立時に少額でも出資してあれば、1票の議決権が与えられます。
最後に、役員に任期はありません。株式会社では役員の任期が最長でも10年と定められているため、任期が経過すると役員改選を行い、登記をしなければなりません。ですが、合同会社の役員には任期がないため、役員改選や登記の必要がありません。
合同会社のメリット・デメリット
合同会社のメリットとデメリットについて解説します。まずはメリットからです。
合同会社3つのメリット
合同会社には、さまざまなメリットがあります。その中でも特に大きなものが、以下の3つです。
- 設立に費用がかからない
- 運営に費用がかからない
- 迅速な意思決定ができる
メリット1.設立に費用がかからない
株式会社を設立する場合は、司法書士に登記を依頼したとしても、定款の認証費用として3~5万円、登録免許税として15万円が実費として必要となります。
しかし、合同会社であれば定款の認証費用は不要で、登録免許税も6万円で済みます。
メリット2.運営に費用がかからない
上述のように、合同会社の役員には任期がありません。したがって、株式会社のように役員改選にかかる手間や費用を支払う必要がありません。
また、株式会社であれば、決算の公告を官報などで行わなければなりません。ですが、合同会社の場合は決算公告の義務がないため、こうした手間や費用を支払う必要もありません。
メリット3.迅速な意思決定ができる
株式会社の場合、定款の変更や新株の発行のような重大な意思決定を行う際には株主総会を開催し、株主に判断してもらわなければなりません。
しかし、合同会社は経営と所有が一致しており、株主総会を開く必要がないことから、迅速な意思決定が行えます。
合同会社3つのデメリット
合同会社には、さまざまなデメリットがあります。その中でも特に大きなものが、以下の3つです。
- 資金調達の方法に限りがある
- 相続や事業承継がしにくい
- 株式会社と比べ社会的信用度が低い
デメリット1.資金調達の方法に限りがある
合同会社は株式会社のように株式を発行し、大々的に出資を募ることができません。したがって、エンジェル投資家などから出資を受けたり、会社の規模を大きくして上場を果たしたりすることはできません。
また、株式会社と比べると金融機関からの審査が厳しく、融資を受けにくい特徴もあります。
デメリット2.相続や事業承継がしにくい
合同会社の社員が、持分を誰かに譲る場合は、他の社員全員の同意を得なければなりません。したがって、相続や事業承継の場合、他の社員が1人でも反対すると、自分の持分を相続人や後継者に移動させることができません。
また会社法では、社員の死亡は法定退社事由とされており、その地位は、原則として相続人等に承継されることはありません。したがって、死亡した社員の地位を相続人等へ承継させたい場合は、あらかじめ定款などに別段の定めをしておかなければなりません。
デメリット3.株式会社と比べ社会的信用度が低い
合同会社は株式会社と比べると設立がしやすい分、どうしてもやれることに限りがあり、社会的な信用度も低くなりがちです。そのため、新規で取引を行う際や金融機関から融資を受ける際に、不利になる場合があります。
1人会社なら株式会社より合同会社がオススメ?
最後に、1人で会社を設立する場合は合同会社か株式会社のどちらが良いかについて解説します。
合同会社の優れている点は、会社として法人格を持てるにも関わらず、設立や運営のコストを安く抑えられる点です。したがって、規模が小さいビジネスモデルである場合や、将来にわたって従業員を雇う予定のない場合であれば、株式会社よりも合同会社を選択した方が良いでしょう。
これに対し、大きなビジョンがあり、事業を拡大することを望む場合は、株式会社を選択した方が良いでしょう。事業を拡大するためには「人、モノ、カネ」の3つが必要です。
合同会社よりも株式会社の方が、一般的に信頼性が高いため、株式会社の方が人材確保をするにあたり有利です。また、モノ(設備など)を揃えるためにはカネ(資金)が必要ですが、金融機関からの融資を受ける場合は、合同会社よりも株式会社の方が有利です。
もちろん、会社の規模がある程度大きくなり、投資家から出資を募る場合でも、株式会社であれば新株を発行して投資をしてもらうことも望めます。
ただし、合同会社から株式会社への組織変更は可能なため、どちらにすべきか迷うようであれば、とりあえず合同会社でスタートしてある程度大きくなった段階で株式会社に変更すると良いでしょう。
まとめ
合同会社は株式会社と比べ、設立費用や運営費用を抑えられるため、小規模な事業を行う場合やできるだけリスクを抑えて会社経営をしたい場合などには非常に使い勝手の良い会社形態といえます。
しかし、本記事で述べたように合同会社にはデメリットも多いため、事業を拡大する際には株式会社ほどの機動力を発揮することはできません。起業にあたりどちらを選んだ方が良いかは状況によって変わるため、心配な方は税理士などの専門家に相談してから決めた方が良いでしょう。