
起業を考えている方や会社を立ち上げたばかりの方にとって、税務調査はあまり身近に感じられないかもしれません。しかし、起業したては帳簿管理や経費処理に不慣れなことが多く、調査の対象になりやすい時期でもあります。
そこで本記事では、税務調査でよく見られる7つのポイントを紹介し、注意すべき点についてできるだけ具体的にじっくりと解説します。
目次
そもそも税務調査とは?
税務調査にはいくつかの種類があり、調査対象の選ばれ方にも一定の傾向があります。そこでまず、税務調査の基本的な仕組みを解説します。
任意調査と強制調査の違い
税務調査には「任意調査」と「強制調査」の2つの種類があります。
- 任意調査・・・事前に税務署から連絡があり、日時を相談して実施される税務調査です。帳簿や領収書などの資料を確認し、申告内容の正確性を調査します。
- 強制調査・・・裁判所の令状を取得して行われる調査で、脱税の疑いが極めて強い場合に限られます。例えば、故意に売上を隠したり、証拠を偽造・隠蔽したりする悪質なケースが対象となります。
強制調査は、長年の事業活動における不正が積み重なった場合などに行われることが多いため、実績の少ない起業直後の事業者が対象になることはほとんどありません。したがって、起業間もない段階で行われるのは、基本的に任意調査となります。
調査対象の選ばれ方
税務調査の対象は、無作為に選ばれるわけではありません。税務署は、申告内容をもとに、業種や規模ごとの平均的な数値と比較したり、売上や経費の推移を確認したりして、不自然な点がある事業者を抽出します。
例えば、以下のようなケースは調査対象となりやすい傾向があります。
- 赤字が続いていたのに急に大きな利益が出た場合
- 経費が異常に多い場合
- 消費税の還付が発生している場合
- 新たに法人を設立した場合
起業直後でも調査対象になる理由
起業したばかりの事業者でも、税務調査の対象になることがあります。主な理由は以下の通りです。
- 帳簿処理や経費計上のミス・・・開業直後は、これらの処理に慣れておらず、ミスが起こりやすい時期です。
- 不自然な売上・経費計上・・・設立直後にもかかわらず、多額の売上や経費が計上されている場合、税務署から不審に思われる可能性があります。
- 消費税の還付・・・消費税の還付を受けている場合、税務署は還付額の妥当性を確認するために調査を行うことがあります。
- 資金繰りの状況・・・資金繰りの状況に不明点がある場合も、調査のきっかけになります。
このように、起業直後であっても、税務調査の対象となる理由は十分にあります。次章より、税務調査で狙われる具体的なポイントについて解説します。
狙われるポイント1 売上の計上ミス
売上は、原則として商品を引き渡した日やサービスを提供し終えた日に記録する「引渡基準」によって計上しなければなりません。しかし、実際には請求書の発行日や入金日で処理してしまうケースも多く、こうしたミスは、特に起業間もない時期に起こしがちです。
そのため、税務調査では、帳簿の内容と実際の取引が一致しているかが細かく確認されます。
狙われるポイント2 経費の水増しや私的流用
事業と関係のない支出を経費として計上すると、税務調査で否認される可能性があります。例えば、以下のようなケースです。
- 家族との食事やプライベートの旅行を「接待交際費」として計上する
- 生活用品の購入を「消耗品費」として計上する
これらのように、事業に関係のない個人的な支出を経費に含める「私的流用」は、税務調査で厳しく指摘されます。実際よりも高い金額で経費を計上する「水増し」も問題です。意図的な水増しでなくても、税務調査では厳しくチェックされます。
狙われるポイント3 外注費・人件費の扱い
外注費と人件費の区分があいまいだと、税務調査で指摘を受ける可能性があります。特に、実質的に従業員と同じ働き方をしている人を「外注」として処理しているケースは問題になりやすいです。
例えば、以下のようなケースでは、「雇用関係」と判断される可能性が高くなります。
- 業務内容や勤務時間、働く場所などを細かく指示している場合
- 継続的に業務を依頼し、報酬が固定給に近い場合
- 業務に必要な道具や材料を会社が支給している場合
このような場合、外注費ではなく人件費として処理する必要があり、源泉徴収や社会保険への加入が必要になります。これらの処理を怠ると、税務調査で指摘される可能性があります。
狙われるポイント4 在庫と棚卸のズレ
在庫とは、期末の時点でまだ売れていない商品や原材料などのことです。この在庫を正しく把握できていないと、売上原価の金額が変わってしまうため、利益も不正確になってしまいます。
また、帳簿にはあるはずの在庫が実際には存在しない、あるいは逆に現物はあるのに帳簿に載っていないといったケースも、調査では狙われるポイントとなります。
狙われるポイント5 役員報酬と貸付金の処理
役員報酬や役員貸付金に関する処理が不適切だと、税務調査で問題視されることがあります。
- 役員報酬・・・役員報酬は、原則として期首(正しくは株主総会)に金額を決めておくものであり、年度の途中で増減させることはできません。そのため、期中に報酬額を変更すると、税務上の損金として認められなくなる可能性があります。
- 役員貸付金・・・会社の資金を個人的な目的で使い、帳簿上「役員貸付金」として処理しているケースも注意が必要です。貸付のまま返済がされずに放置されていると、実質的な私的流用とみなされかねません。
- その他・・・役員と会社の間のお金のやりとりは、経費との区別があいまいになることも多いため、調査では特に注目されます。
狙われるポイント6 法人成りで発生した期ズレ
個人事業から法人へ切り替える「法人成り」を行う際には、売上や経費の計上時期に注意が必要です。事業の名義が変わるタイミングで、どの取引を個人側に記録し、どれを法人のものとして処理するかを明確にしておかないと、計上時期がずれ、税務調査で指摘を受ける可能性があります。
例えば、以下のようなケースが問題となります。
- 法人設立前に受け取った注文を法人の売上として処理する
- 個人事業で購入した設備を法人の経費に計上する
- 同じ内容の請求書を個人と法人の両方に計上する(二重計上)
狙われるポイント7 消費税還付(輸入・輸出)
消費税の還付とは、支払った消費税の一部が戻ってくる制度のことで、特に輸出事業者は還付を受けられる場合があります。例えば、輸出取引には消費税がかからないため、輸出事業者は仕入れ時に支払った消費税の還付を受けることができます。
しかし、以下のようなケースは税務調査で不正を疑われる可能性があります。
- 仕入れ金額が不自然に多い
- 実態のない取引が含まれている
また、消費税還付を受けるためには、輸出取引を証明する以下の書類が必要です。
- インボイス
- 通関書類
- 輸出許可証
したがって、これらの書類を適切に保管しておかなければなりません。
なお、輸入取引も同様に、消費税還付の対象となる場合がありますが、こちらも同様に申告内容が複雑で、かつ処理ミスが起こりやすいため、税務調査では重点的なチェック項目となります。
まとめ
税務調査は、創業間もない事業者にとっても決して無関係ではありません。帳簿の付け方や経費の処理に慣れないうちは、意図せず間違った申告をしてしまうこともあります。
今回紹介した7つのポイントは、税務調査で特に注目されやすい部分です。どれも基本的な内容ですが、実務の中で見落とされがちな点ばかりです。税務調査を受けても慌てないように、日頃から丁寧な記録を心がけるとともに、早い段階から税理士などの専門家に相談できる体制を整えておくと良いでしょう。