起業して初めて人を雇うとき、「何から手をつければいいかわからない」と不安になる方も多いのではないでしょうか。契約書類の作成や社会保険の加入をうっかり忘れると、後から罰則やトラブルにつながる可能性もあります。
そこで本記事では、従業員を採用する際に最低限押さえておきたい手続きを、図表や箇条書きで整理してまとめました。手順を一つずつ確認しながら読み進め、順番にクリアしていけば、複雑な手続きもきっとスムーズに進められるでしょう。
目次
雇用形態と労働条件で決めておくべきこと
採用手続きは、雇用形態と労働条件を決めるところから始まります。ここが曖昧だと、後の手続きにも影響しかねないだけに、しっかりと理解しておきましょう。
正社員・パートなどの雇用形態の選び方
まずは、従業員をどの雇用形態で採用するのかを決めます。代表的な種類とその特徴は以下のとおりです。
| 特徴/種類 | 正社員 | 契約社員 | パート・アルバイト |
|---|---|---|---|
| 期間の定め | なし(無期) | あり(更新可能性あり) | なし(もしくはあり) |
| 勤務時間 | フルタイムが基本 | 業務による | 短時間が基本 |
| 社会保険・雇用保険 | 原則加入 | 原則加入 | 一定条件で加入 |
このように、雇用形態ごとに保険や法律の取り扱いが変わるため、働き方に合わせて適切に手続きを進めていきましょう。
労働条件通知書と雇用契約書で決めておくこと

従業員を、正社員や契約社員、パート・アルバイトとして雇用するためには、労働条件通知書を作成しなければなりません。これは法律で義務付けられており、従業員に対して書面等での明示が必要です。
なお、通知書で主に定める内容は、以下のとおりです。
- 契約期間(有期・無期)
- 契約更新の基準(契約期間がある場合)
- 給与(基本給・手当・支払日)
- 勤務時間・休日・残業の有無
- 勤務地・業務内容
- 退職に関する事項
また、雇用契約書は法的な作成義務はありませんが、労働条件などの認識違いによるトラブルを防ぐため、実務上は作成しておくのが一般的です。労働条件通知書と兼ねて、労働条件通知書兼雇用契約書として交付するケースも多く見られます。
入社時に必須の手続き|社会保険・労働保険の加入フロー
従業員を雇うと、保険関係の手続きが発生します。ただし、期限が短いものが多いため、以下の加入フローをしっかり把握しておきましょう。
社会保険(健康保険・厚生年金)の加入手続き
社会保険の手続きは、以下の流れで進めます。
- 加入対象者か確認する・・・正社員は原則対象となり、パート・アルバイトでも週20時間以上かつ企業規模などの一定の要件を満たす場合は対象になります。
- 必要書類を準備する・・・基礎年金番号やマイナンバーなど、従業員情報を確認します。
- 資格取得届を作成する・・・「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」を作成します。
- 年金事務所へ提出する(5日以内)・・・入社日から5日以内という期限があるため、最優先で対応します。
- 保険証の交付・・・後日、保険証が届いたら従業員へ渡します。
社会保険の加入手続きは期限が短いため、入社前から準備を進めておくと、慌てずスムーズに進められます。

雇用保険と労災保険の加入手続き
労働保険は「雇用保険」と「労災保険」で手続きが分かれます。まずは、雇用保険の手続きからです。
- 加入対象者か確認する・・・週20時間以上かつ31日以上雇用見込みがある場合に対象となります。
- 必要情報を確認する・・・雇用保険被保険者番号(前職の情報)を確認します。
- 資格取得届を作成する・・・「雇用保険被保険者資格取得届」を作成します。
- ハローワークへ提出(翌月10日まで)・・・期限は比較的余裕がありますが、早めに対応しておくと安心です。
次は、労災保険の手続きです。
- 保険関係成立届を提出する・・・所轄の労働基準監督署へ提出します。
- 概算保険料申告書を提出する・・・保険料の申告を行います。
- 保険料を納付する・・・金融機関で納付手続きを行います。
手続きの期限と電子申請の簡単なコツ
社会保険・労働保険の加入手続きの期限は以下のとおりです。
| 手続き | 提出期限 |
|---|---|
| 社会保険 | 入社後5日以内 |
| 労災保険 | 労働保険関係成立後10日以内 |
| 雇用保険 | 翌月10日まで |
社会保険の提出期限は、入社後5日以内と非常に短く定められています。遅れると、過去にさかのぼって社会保険料を請求される(遡及加入)可能性があります。また、従業員が一時的に医療費を全額負担する可能性もあります。そのため、まずは社会保険の加入を済ませ、その後で労災保険・雇用保険の順に手続きを進めていくと良いでしょう。
また、電子申請を活用すると、24時間提出可能で窓口に行く手間もなくなるため、大変便利です。その際は、事前にアカウントを取得し、書類をテンプレ化しておくと、今後の作業時間を大幅に削減できます。
書類はこれだけ揃える!雇用契約書・就業規則・各種届出
従業員を雇用する際に必要となる書類の準備は、「会社側で作るもの」と「従業員から集めるもの」の2つに分けておくと、整理しやすくなります。それではまず、会社側で準備する書類から見てみましょう。

会社側で準備する主な書類と送り方
従業員を雇用する際に、会社が用意する主な書類は以下のとおりです。
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
- 扶養控除等申告書
- 入社誓約書(簡単なルールを守る同意書)
- 採用通知書(内定のお知らせ)
これらの書類を作成したら、郵送またはPDFで送付し、署名・捺印後に回収するのが一般的です。郵送の場合は返信用封筒を同封し、提出期限を明記しておくと、回収がスムーズになります。就業規則は、常時使用する労働者が10人未満の事業場では作成義務がありませんが、ルールが決まってきたら簡単なものを作っておくと良いでしょう。
従業員から集める書類と回収のポイント
従業員から集める主な書類は、以下のとおりです。
- 雇用保険被保険者番号(中途採用の場合)
- 基礎年金番号通知書(または年金手帳)の写し
- 給与振込口座
- 前職の源泉徴収票(中途採用の場合)
- マイナンバー確認書類
入社前に必要書類をリスト化し、あらかじめ案内しておけば、漏れが減ります。また、マイナンバーは大事な個人情報なので、利用目的を伝えてから預かり、安全に保管しなければなりません。
見落とし注意!給与計算・源泉徴収・労務管理の初期設定

保険や書類の手続きが済んだら、次は給与を支払う準備です。初回給与の支払いまでに必要となる準備が多いため、早めに進めておきましょう。
給与計算の準備と法定三帳簿の作り方
給与を支払うためには、以下の法定三帳簿を作らなければなりません。
- 労働者名簿(氏名や入社日などの基本情報)
- 賃金台帳(給与額や控除額の記録)
- 出勤簿(労働日数や勤務時間の記録)
これらは法律で作成が義務付けられています。エクセルなどでも作成できますが、クラウド給与ソフトを活用すると自動で連動するため、ミス防止と業務効率化につながります。
初回給与支払いまでに確認したいこと
初回の給与支払いでは、通常の給与とは異なる点に特に注意が必要です。社会保険料は、従業員が入社した月から発生します。
ただし、給与から実際に差し引くタイミングは、会社の給与締め日・支払日のルールなどによって異なります。そのため、自社の給与規定などと照らし合わせた上で、控除タイミングを間違えないように明確にしておかなければなりません。
また、所得税は、扶養控除等申告書の提出の有無により税額が変わります。未提出の場合は、高い税率(乙欄)で源泉徴収しなければならないため、間違えないように注意が必要です。
さらに、住民税については、前職の状況によって以下のように対応が分かれます。
- 前職で特別徴収 → 継続または切替手続き
- 普通徴収 → 本人納付か特別徴収へ切替
間違えると二重徴収や未納の原因になるため、入社時点で必ず確認しておきましょう。
また、給与明細の発行方法や支給方法(現金・振込)も、事前に決めておく必要があります。こうした初期設定は、一度きちんと設定してしまえばその後の運用が安定するので、最初に丁寧に準備しておきましょう。
まとめ
入社手続きは、社会保険や労働保険、税金、書類作成など多岐にわたりますが、全体の流れを理解した上で事前に準備しておけばスムーズに進められます。ただし、初めての場合、見落としや判断ミスが起こりやすいため、早い段階から準備を整えておくことが大切です。
最初に間違えてしまうと、後に大きなトラブルを招く恐れがあるため、少しでも不安がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。