企業版ふるさと納税は、地方創生の一環として導入された制度で、企業が地方公共団体に寄付を行うことで税制上の優遇を受けられる仕組みです。個人向けのふるさと納税と異なり、返礼品がない代わりに、寄付した企業には最大で9割の税額控除が適用されます。
この制度は地方の経済活性化を目的としているため、積極的に活用すれば、節税と社会貢献の両方を実現することができます。そこで本記事では、この企業版ふるさと納税の概要や個人版との違い、メリット・デメリットや2025年3月に期限を迎える現行制度の延長と拡充について解説します。
目次
企業版ふるさと納税とは
はじめに、企業版ふるさと納税とはどのような制度で、その期限はいつまでなのかについて整理しておきましょう。
概要と目的
企業版ふるさと納税は、2016年に導入された「地方創生応援税制」の一環として始まりました。この制度の目的は、地方自治体が実施する「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」に企業が寄付を行い、その資金をもとに地域の経済や社会の活性化を図ることにあります。
具体的なプロジェクトとしては、人口減少対策、観光産業の振興、地域資源の活用などが挙げられます。企業が寄付を行うと、税制上の優遇措置が受けられることから、実質的な負担を軽減しながら地域に貢献できるという特徴があります。
いつまで利用できるのか?
現行の企業版ふるさと納税は、2025年3月31日までに支出された寄付が対象となります。この期限は、2020年度の税制改正により延長されたもので、当初の制度では2020年で終了する予定でした。
ですが、地方創生の重要性が高まっている背景から、さらに5年間の延長が決定されました。また、2025年以降についても、さらなる延長や制度の拡充を求める声が強まっています
個人版ふるさと納税との違い
企業版ふるさと納税は、個人向けのふるさと納税と同じように寄付を通じて地域の発展に貢献する制度ではありますが、いくつかの重要な違いがあります。
返礼品の有無
個人版ふるさと納税では、寄付を行った自治体から返礼品が送られてくることが一般的ですが、企業版ふるさと納税には返礼品がありません。これは、企業が自治体に対して寄付を行うことにより、見返りとして利益を得ることが禁止されているためです。
企業版ふるさと納税は、あくまでも、企業の社会的責任(CSR)の一環として地域貢献を促進する目的で運用されています。こうした趣旨の違いから、企業版ふるさと納税には個人の場合とは違い、返礼品はありません。
税制上の違い
個人版ふるさと納税は、住民税や所得税の一部が控除される仕組みでとなっています。これに対し企業版ふるさと納税では、法人税、法人住民税、法人事業税の3つが税額控除の対象となります。
具体的には、寄付額の最大9割が税額控除の対象となり、その内訳は法人住民税で4割、法人税で1割、法人事業税で2割が控除されます。このように、個人版とは違い企業版では、複数の税金にまたがって税額控除が適用されるため、企業にとっては大きなメリットがあります。
企業版ふるさと納税のメリット・デメリット
企業版ふるさと納税は、企業にとって税制上のメリットがある一方で、利用する際にはいくつかのデメリットも存在します。そこでこの章では、企業版ふるさと納税のメリットとデメリットのそれぞれについて、詳しく解説します。
4つのメリット
企業版ふるさと納税のメリットは、おもに以下の4つです。
税制優遇の大きさ
寄付額の最大9割が税額控除の対象となり、実質的な企業負担が1割に抑えられます。これにより、大規模な寄付でも企業の財務に対する負担が軽減されます。
社会貢献(CSR)活動の強化
地方自治体の「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」に寄付することで、企業は地域社会に対して積極的な貢献ができ、社会的責任を果たすことができます。
地方自治体とのパートナーシップ構築
寄付を通じて、企業は地域自治体との連携を強化することができます。これにより、地域経済の発展に貢献するだけでなく、将来的なビジネスチャンスを得る可能性も広がります。
企業イメージの向上
地域への積極的な貢献は、企業の社会的イメージを向上させ、消費者や投資家からの信頼を得やすくなります。
このように、企業版ふるさと納税を活用すると、多くのメリットが得られます。
4つのデメリット
企業版ふるさと納税のデメリットは、おもに以下の4つです。
寄付先の制約
企業の本社が所在する自治体への寄付は対象外とされており、さらに財政力の高い自治体や特定の大都市圏も寄付先から除外されるため、企業が寄付できる自治体が限られています。
直接的な見返りがない
個人版ふるさと納税とは異なり、企業版では返礼品が認められていません。そのため、企業は寄付による経済的な利益を直接得ることができません。
一定の負担が残る
最大9割の税額控除が適用されるものの、1割程度の負担は企業に残ります。特に大規模な寄付を行う場合、この1割が企業の財務に与える影響を事前に考慮する必要があります。
手続きの複雑さ
企業版ふるさと納税を利用する際には、寄付の申請や認定を受ける手続きが必要です。このため、中小企業にとっては手続きの負担が大きくなることがあります。
企業版ふるさと納税には、メリットだけでなくこのようなデメリットも存在します。そのため、これらのデメリットを十分に理解した上で、ふるさと納税を行うかどうかを決めなければなりません。
企業版ふるさと納税の期限延長と拡充の動向
2025年3月に現行制度の期限を迎える企業版ふるさと納税ですが、今後の延長や拡充に関する議論が進んでいます。
2025年3月の期限について
現行の企業版ふるさと納税制度は、2025年3月31日をもって終了する予定です。この期限は2020年に5年間延長されたもので、制度開始以来、地方創生に対して大きな成果を挙げています。
しかし、地方自治体や企業からは、さらなる制度延長を求める声が高まっており、政府内でも延長に向けた議論が進んでいます。
拡充の内容
2025年以降の企業版ふるさと納税の拡充については、いくつかの改善案が議論されています。まず、税額控除のさらなる拡大が提案されています。現在は最大9割の税額控除が適用されていますが、これをさらに引き上げ、企業の負担をさらに軽減することで、より多くの企業が参加できるようにする方針が検討されています。
また、手続きの簡素化も拡充案の一つとして挙げられています。企業が寄付を行う際の申請手続きをより迅速かつ簡単にすることで、特に中小企業にとっても利用しやすい制度となることが期待されています。これらの拡充案が採用されれば、企業版ふるさと納税は、企業にとってより使いやすい制度となるでしょう。
まとめ
企業版ふるさと納税は、企業が地方自治体に寄付を行い、最大9割の税額控除を受けながら地域社会への貢献を果たす制度です。税制優遇による負担軽減や、社会貢献活動を通じた企業イメージ向上などさまざまなメリットがある反面、寄付先の制約や手続きの複雑さといったデメリットもあります。
また、2025年3月に現行制度の期限が迫っており、延長や拡充を求める動きが高まっています。したがって、今後の動向を注視し、企業としての社会的責任を果たしつつ、制度の最大限の活用を検討していくことが重要となるでしょう。