中小企業経営者やフリーランスは、会社員とは違い、自分の好きなスタイルで仕事を行うことができます。これはとても大きなメリットですが、その反面、退職や廃業をしても退職金をもらうことはできません。
その代わり、中小企業経営者やフリーランスは、自分で自分の退職金を積み立てることができます。小規模企業共済を活用し、自分用の退職金をあらかじめ積み立てておけば、退職時や万が一の場合に積み立てた金額以上のものを受け取ることが可能です。
そこで本記事では、中小企業経営者やフリーランスの方を対象に、小規模企業共済を使った退職金の積み立てについて解説します。
目次
小規模企業共済とは?
小規模企業共済とは、国の外郭団体である独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営している共済制度のことで、小規模企業経営者やその役員、個人事業主の方などは、退職や廃業時の生活資金などのために退職金が積み立てられます。
掛金について
小規模企業共済の掛け金は、月々1,000~70,000円まで500円単位で自由に設定ができ、加入後も経済状況などに合わせて随時増額や減額ができます。
また、支払った掛金は、会社役員や共同経営者であれば年末調整で、個人事業主であれば確定申告で全額を課税所得から控除できます。
したがって、所得が増えて税率が高くなればなるほど、節税効果は高くなります。
共済金の受け取り時期と受け取り方法
積み立てた小規模企業共済は、基本的に退職や廃業をしなければ受け取ることができません。自己都合による任意解約も可能ですが、その場合は掛け捨てや元本割れが生じる可能性があります。
ただし、積み立てた金額の7~9割程度が低利・無審査で貸し付けてもらえるため、急な資金が必要な際にはこうした貸付制度を利用することができます。
また、共済金の受け取り方法は、「一括」「分割」「一括と分割の併用」のどれかを選択できます。一括受取りの場合は退職所得に、分割受取りの場合は公的年金等の雑所得になるため、個人の状況に合わせて節税できる受け取り方法が選択できます。
小規模企業共済のメリット・デメリット
次に、小規模企業共済のメリットとデメリットについて解説します。まずはメリットからです。
小規模企業共済のメリット
小規模企業共済のおもなメリットは、以下の3つです。
非常に高い利回りで退職金の積み立てができる
小規模企業共済の掛金は、全額所得控除ができます。所得税の税率は5~45%、住民税は10%ですから、支払った掛金の合計に対して最低でも15%(所得税5%+住民税10%)、最高で55%(所得税45%+10%)の節税効果が生じます。
これを金融商品として考えた場合、極めて高利回りで確実に運用できる非常に優れた商品だといえます。もちろんこうした節税分とは別に、払い込んだ掛金に対して金利に相当する金額が加算されます。
個人事業主の決算対策にも使える
小規模企業共済の支払方法には、「月払い」「半年払い」「年払い」の3種類があります。個人事業主が12月支払いの「年払い」を選択すれば、その年の売上高などの状況に応じて、支払う掛金の年払い分をコントロールできます。
したがって、収益が出ている時は多めに、少ない時は少なめの掛金に調整すれば、決算対策にも効果的に使えます。
低利で貸付制度を活用できる
万が一資金が必要になった場合は、これまで積み立ててきた金額に対して7~9割程度の貸し付けが無審査で受けられます。貸付金利に関しては、令和6年6月時点で一般貸付が1.5%、特別貸付が0.9%と極めて低利であるため、万が一の場合でも安心です。
小規模企業共済のデメリット
小規模企業共済のおもなデメリットは、以下の3つです。
12ヶ月未満で任意解約をすると掛け捨てになる
加入してから12ヶ月未満で、退職や廃業ではなく本人の都合による任意解約をすると、解約手当金が一切支給されません。したがって、実質的に掛け捨てになってしまいます。
この点は大きなデメリットといえますが、小規模企業共済の掛金は月額1,000円からなので、掛金の支払いが難しい場合は最低金額に変更し、できるだけ掛け捨になるのを回避するように工夫することも可能です。
20年未満で任意解約をすると元本割れになる
法人の解散や役員の病気、65歳以上で退任した場合や共済契約者の死亡にともない共済金が支払われる場合などは、基本的に元本割れすることはありません。
しかし、契約者本人の都合により任意解約をする場合は、加入期間が20年未満であれば、元本割れを起こしてしまいます。
したがって、元本割れを防ぐためには上述のように最低限まで掛金を落とし、何とか20年を超えるまではかけ続けられるようにしなければなりません。
共済金を受給する時には課税される
共済金の受給は退職所得となるため、退職所得控除額を超える金額に対しては、所得税が課税されます。
ただし、共済金の受け取り方法は上述のように一括払いと分割払いを組み合わせられるため、上手に活用すれば課税される税金を最小限に抑えることも可能です。
小規模企業共済の加入資格と手続きについて
最後に、小規模企業共済の加入資格と手続き方法について解説します。
小規模企業共済の加入資格者
小規模企業共済は、誰でも加入できる制度ではありません。小規模企業共済に加入できるのは、以下の3者です。
- 会社役員
- 個人事業主
- 共同経営者
会社役員
株式会社であれば取締役や監査役、合同会社であれば社員などにあたる、いわゆる会社経営者及びそれに類する業務を執行する方が、小規模企業共済の加入資格者となります。役員かどうかの判定は、役員登記の有無で判断されます。
また、会社の規模は小規模でなければなりません。業種によって従業員数の上限が細かく設けられていますが、従業員が20名を超える企業の役員である場合は、業種に関係なく小規模企業共済に加入できません。
個人事業主
個人事業主として業務を行い、商業(卸売業・小売業)やサービス業(宿泊業、娯楽業を除く)であれば従業員が5人以下、それ以外であれば従業員が20人以下であれば、小規模企業共済に加入することができます。
ただし、会社員が副業として個人事業を行っている場合や生命保険外交員などは、個人事業主であっても小規模企業共済に加入することができません。
共同経営者
個人事業主ではなくても、事業主の方と一体となって事業の経営に携わっている方(事業専従者など)も、小規模企業共済に加入できます。ただし、加入できるのは個人事業主1人につき2人までと定められています。
また、個人事業主の場合と同様に、従業員数の要件を満たさなければなりません。
小規模企業共済の加入手続きについて
小規模企業共済へ加入するための手続きは、オンラインや金融機関の窓口などで行なうことができます。その際、以下の書類が必要となるため、あらかじめ準備をしておくと良いでしょう。
- 法人の役員の場合・・・履歴事項全部証明書などの役員登記が確認できるもの
- 個人事業主の場合・・・確定申告書の控え(税務署受付印もしくは受信通知があるもの)
まとめ
中小企業経営者やフリーランスの方のために用意されている小規模企業共済は、本記事で述べたように最高で掛金の約55%もの節税効果を生じさせることのできる非常に優れた制度です。経営者や個人事業主の方は、この制度を上手に活用し、節税しながら将来の退職金の積み立てをしていくと良いでしょう。
ただし、途中解約は元本割れのリスクがあり、掛金を増やし過ぎれば手元の資金が不足してしまう場合も考えられます。また、共済金の受け取り方法によっては課税される金額が増えてしまいます。
そのため、ご自身にとって何が最適なのかを知りたい方は、加入前に税理士などの専門家に相談してみると良いでしょう。